[研究レポート No.230]
【要旨】中国は、外国直接投資(FDI)誘致と輸出振興の成功で注目されている。だが、多国籍企業による技術移転の内部化戦略の加速等の状況変化に対して、多国籍企業の技術移転に依存している中国FDI政策は、量的拡大よりも技術移転効果等を図るための選択的なFDI政策の方向へシフトしている。しかし、選択的なFDI政策の根拠はどこにあるのか。中国で評価の高いケースと評価の低いあるいはマイナス効果への懸念の多いケースを調査研究して、これらの問いに実証面から解を求めた。ケーススタディは、(1)携帯端末産業、(2)自動車産業、(3)小売業、(4)銀行サービス業に対して行った。これらの産業を調査研究の対象にしたのは、外資進出が多く中国にとっていずれも需要な産業であり、評価も分かれていたからである。
ケーススタディの結果、FDIが中国経済・産業に与えるプラスの影響として、投資資金導入とともに、(1)輸出拡大、(2)技術拡散、(3)地場サプライヤーの育成、(4)雇用拡大、(5)企業統治の改善やマネジメントレベルの向上、(6)競争促進等の効果が上げられる。プラス効果は大きく、マイナス効果も散見されている。
中国の経験から途上国政策担当者へのヒントや示唆が得られる。それには、(1)発展レベルの低い段階にある途上国は、FDI流入の量的拡大政策が優先されるべきこと、(2)初期段階を終えた途上国は、FDIにともなう技術移転効果の向上をはかるべきこと、(3)FDI活用につながる地場企業育成政策を推進すること、(4)インセンティブ・システムは効率的に追求すべきこと、(5)サービス業の自由化を推進すべきこと、(6)クラウディングアウト効果を最小限に留められる政策セットを同時に推進することが上げられる。